数世紀に渡る変遷の中で、さまざまなタロットが誕生し、現在のスタンダードが形作られました。この「ミンキアーテ・タロット」は、私たちのよく知るライダー・ウェイト・タロットや、マルセイユ版と呼ばれるカードデッキとは異なり、全97枚という大掛かりな構成が組まれています。
小アルカナ56枚であるのに対し、大アルカナと呼ばれるカードが41枚あります。一般的な22枚の大アルカナに加えて、「賢慮」「希望」「慈愛」「信仰」といった美徳を表すカードがあり、一方で「女教皇」「教皇」ではなく「太公」「西の皇帝」「東の皇帝」といったカードが含まれます。
「ミンキアーテ」という言葉は、その時代や地域によって、世俗的な意味合いをもつイタリア語だとされ、このタロットが必ずしも高尚な品物ではなかったということを伺い知ることができます。
もとよりタロットカードは占いのツールではなく、カードゲームとして愛され流通していたという歴史からも、タロットが神秘性を帯び始める以前に、ユニークにして芸術的なカードゲームとしてこの「ミンキアーテ・タロット」が作られたものだということがわかります。
では、タロットを占星術や神秘的なものと結びつけ、占いのツールとしてのタロットが作られたとして、それは間違った行為だったのでしょうか?
否、古典と呼ばれるタロットカードの絵柄は、有名絵画のそれと同じ構図を持ち、教会に描かれた宗教画や、神話絵画にも、共通する象徴が描かれていることなどから考えれば、カードゲームとして流通したタロットに神秘性を見出すことは、決して難しいことではなかったといえるでしょう。
絵画の中に見られる象徴を読み解くことで、このタロットカードに描かれた世界の奥行きは大きく広がります。
全312ページに及ぶ肉厚な解説書は、人々が焦がれた神話世界のイメージをどこまでも拡大し、全く新しい、タロットへの解釈の視点をもたらすことでしょう。